子どもたちの笑顔のために日々奮闘する保育士さん。やりがいがある一方で「給料が安い」という声をよく耳にします。
「保育士の給料が安いのは当たり前」という言葉を投げかけられることもあるようです。
でも、本当にそれは「当たり前」のことなのでしょうか?
この記事では、保育士さんの給料事情や安い理由、そして収入アップの方法までご紹介します。
保育士の給料はいくらなの?実態を知ろう

「保育士ってどのくらい給料がもらえるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。まずは実際の金額を見てみましょう。
保育士の平均年収は382万円〜391万円
厚生労働省の調査によると、保育士の平均年収は約382万円(2021年の賃金構造基本統計調査)とされています。
最新の「令和4年賃金構造基本統計調査」では、月々の給与が約26万6800円、ボーナスなどが年間約71万2100円で、年収は約391万3700円となっています。
ただし、これはあくまで平均値。実際には勤務先や経験年数、雇用形態によって大きく異なります。非正規雇用の場合は手取りで15万円程度という声も珍しくありません。
国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、日本の給与所得者の平均給与は約443万円。
保育士の給料は全体的に見ても低めであることがわかります。月々の手取りは、額面の75%程度と考えると、約20万円前後というのが一般的な姿でしょう。
給料の安さに不満を持つ保育士は多い
東京都福祉保健局の「平成30年度東京都保育士実態調査」によれば、保育士の離職理由のトップは「職場の人間関係」(33.5%)ですが、2番目に多いのが「給料が安い」(約30%)となっています。
仕事内容は好きでも、生活が成り立たない、将来に不安を感じるなどの理由で転職を考える保育士さんが少なくないのです。3位以下には「仕事量が多い」「労働時間が長い」といった理由が続き、労働条件の厳しさがうかがえます。
なぜ「給料が安いのは当たり前」と言われるの?

保育士の大切な仕事に対して、なぜ「給料が安いのは当たり前」などと言われてしまうのでしょうか。その背景には複数の要因があります。
特別なスキルが必要ないと誤解されている
保育士は国家資格であり、専門的な知識やスキルが必要な職業です。しかし、「子どもと遊んでいるだけ」といった誤解をされることがあります。
実際には、子どもの発達や心理についての知識、ケガや病気への対応力、保護者対応能力など、多様なスキルが求められます。
こうした専門性への理解不足が、給料が安くても仕方がないという誤った認識につながっているのかもしれません。
利益を追求していない組織だから
保育所は一般企業とは違い、利益を最大化することを目的としていません。国からの補助金や保護者からの保育料で運営されているため、収入源に制限があるのです。
補助金は税金で賄われているため、過剰に上げれば国民負担が増えます。また、保育料を大幅に上げると、子どもを預けられない家庭が出てきてしまうでしょう。
このような事情から、営利企業と比べて給料に差が出るのは避けられない面もあります。
公立保育所は地方公務員の給料体系
公立保育所で働く保育士は地方公務員となり、給料表に基づいて報酬が決まります。つまり、どれだけ頑張っても、給料表で定められた範囲内でしか昇給しないのです。
安定した収入という魅力はありますが、民間企業のように業績に応じた大幅な昇給やボーナスは期待できません。
歴史的に低く設定されてきた背景
保育は歴史的に「子育ての延長」と見なされ、専門職としての評価が低かった時代があります。
特に、女性が家庭内で子育てをするのが当然とされていた時代の名残で、「家庭でも行っている行為」という誤った認識から、専門性が適切に評価されてこなかったという背景もあるでしょう。
保育士の給料が安くなる具体的な理由

保育士の給料が安いと言われる具体的な理由には、制度的な問題も関わっています。
公定価格による制限
保育所では「公定価格」という仕組みがあり、子ども1人当たりの教育・保育に必要な費用が国によって定められています。
この中には職員の人件費も含まれているため、施設側の裁量で自由に給料を決められない状況があります。
特に私立保育園では、園の運営状況によっては保育士の給料を低く設定せざるを得ないケースも。
補助金の額が実態に見合っていない場合、十分な保育のためには多くの職員を雇う必要があり、その結果1人当たりの人件費が少なくなってしまうこともあるのです。
配置基準に基づく公費支給の問題
保育園の運営資金は、保護者が支払う保育料と公費(国や自治体からの補助金など)によって賄われています。
この公費は「配置基準」に基づいて決められることが多いのですが、この基準が現場の実態とかけ離れているとの指摘があります。
配置基準とは「子どもの数に対して保育士は何名必要か」を定めたもので、例えば:
- 0歳児:子ども3人につき保育士1人以上
- 1・2歳児:子ども6人につき保育士1人以上
- 3歳児:子ども20人につき保育士1人以上
- 4歳以上:子ども30人につき保育士1人以上
特に3歳以上になると、担当する子どもの数が急増します。実際には、この基準以上の保育士やスタッフがいないと運営が難しいケースも多いのですが、公費は基準分しか支給されません。
その結果、人件費を抑えざるを得ない状況に陥りやすいのです。
保育士の給料を増やす方法はある?
「このまま保育士を続けていても給料は上がらないの?」と不安に思う方も多いでしょう。実は、給料アップの道はいくつか存在します。
役職に就くことでキャリアアップ
同じ保育所内でキャリアを積み、主任や園長といった役職に就くことで給料アップが期待できます。役職手当が支給されるほか、基本給も上がることが一般的です。
ただし、役職に就くには通常20年近いキャリアが必要とされることが多く、すぐに実現できる方法ではないかもしれません。また、責任も大きくなります。
例えば主任は現場の保育士をまとめ、園長の補佐を担う中間管理職のような存在。園長は保育だけでなく、人事や経営にも関わる最高責任者です。やりがいは大きい反面、負担も増えることを覚悟しておく必要があります。
キャリアアップ研修制度を活用する
国の「保育士処遇改善等加算II」という制度があります。専門性を高めるキャリアアップ研修を受けることで、経験やスキルに応じた処遇改善手当が支給される仕組みです。
この制度では、園長と主任以外にも「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」という役職が設けられています。
- 職務分野別リーダー:月額5,000円
- 副主任保育士・専門リーダー:月額最大4万円
研修を修了することで、これらの手当を受け取れるようになるので、積極的に活用したい制度です。
より条件の良い保育所への転職
保育士は人手不足の職種であり、求人も多い傾向にあります。現在の職場での給料アップが難しい場合は、条件の良い保育所への転職も選択肢の一つでしょう。
有給休暇が取りやすい、ボーナスが充実しているなど、待遇面で差別化を図っている保育園も増えています。求人情報をチェックする際は、給料だけでなく、働きやすさや福利厚生なども含めて比較検討するとよいでしょう。
また、保育所にこだわらず、ベビーシッターや保育ママ(家庭的保育事業者)など、保育士資格を活かせる他の仕事への転職も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
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保育士の需要と将来性は?

「今後も保育士として働き続けるか悩んでいる…」という方のために、保育士の需要と将来性についても見ていきましょう。
高い求人倍率が続いている
厚生労働省のデータによると、保育士の有効求人倍率は全職種平均と比べて高い水準を維持しています。
2019年は3.86倍、2020年は2.94倍、2021年は2.93倍と推移し、2022年7月時点でも2.21倍となっています。
これは、1人の保育士志望者に対して2件以上の求人があるということ。
2022年7月の全職種平均が1.26倍であることを考えると、他の職種に比べて人手不足が顕著であることがわかります。今後も高い需要が続くと予想されます。
保育所の数は年々増加中
保育士が働く保育所の数も、年々増加傾向にあります。こども家庭庁の「保育所等関連状況取りまとめ」によると、保育所等の数は右肩上がりで増えています。
2015年の約2万8,783カ所から、2023年には約3万9,589カ所へと増加。働く場所は確実に広がっていると言えるでしょう。
待遇改善の取り組みも進行中
保育士の給料は他の職種に比べると低い水準ですが、国の政策によって徐々に改善されつつあります。
2015年から段階的に処遇改善が行われており、2022年2月からは保育士の収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置が取られました。
社会における保育士の重要性を考えれば、今後も賃金改善が進む可能性は十分にあります。「保育士の給料が安いのは当たり前」という認識が過去のものとなる日も、遠くないかもしれません。
まとめ:保育士の給料は「当たり前」に安くていいの?
保育士の給料が安いのは「当たり前」ではなく、様々な制度的・歴史的背景が影響しています。子どもたちの成長を支える重要な仕事であり、専門的なスキルと知識が必要な職業です。
現在の平均年収は約382〜391万円程度で、全体的には給与所得者の平均(約443万円)より低い水準にありますが、キャリアアップや処遇改善の取り組みによって、少しずつ改善されつつあります。
高い有効求人倍率や保育所数の増加を見ると、保育士の需要は今後も高い状態が続くと予想されます。給料アップを目指すなら、キャリアアップ研修の受講や役職への昇進、条件の良い職場への転職なども選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
子どもたちの未来を支える保育士の仕事が、社会でより適切に評価され、待遇が改善されていくことを願っています。
よくある質問
- 保育士の給料が安いのはなぜですか?
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保育所が利益追求を目的としていないこと、公定価格や配置基準に基づく制度的制約、歴史的に専門性が十分に評価されてこなかったことなどが理由として挙げられます。多くの保育所が補助金や保育料で運営されているため、自由に給料を上げることが難しい状況があります。
- 保育士の給料を上げるにはどうすればいいですか?
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主任や園長などの役職に就く、キャリアアップ研修を受講して処遇改善加算を得る、給料水準の高い保育所へ転職するなどの方法があります。また、保育士不足が続いている現状では、条件面で他と差別化を図っている保育所も増えているため、求人情報をよくチェックすることも大切です。
- 保育士の将来性はどうですか?
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保育士の有効求人倍率は全職種平均より高く、保育所の数も年々増加しています。働く場所は確実に広がっており、需要の高さから今後も安定した職業と言えるでしょう。また、国の政策によって少しずつ待遇改善も進んでいます。社会における保育士の重要性が認識されるにつれ、給料水準も改善される可能性があります。
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