「年収780万円以上になると損をする」という話を聞いたことはありませんか?
特に厚生年金の仕組みに関して、このような言説があります。実際のところ、年収780万円を境に何が変わるのか、本当に「損」なのかを、税金や年金の観点から詳しく解説します。
厚生年金の標準報酬月額の上限と年収780万円の関係

年収780万円が節目と言われる最大の理由は、厚生年金の「標準報酬月額」の上限にあります。
厚生年金保険料の上限
厚生年金の保険料は「標準報酬月額」に応じて決まります。この標準報酬月額は1級から32級まで分かれており、最上級の32級は月収63万5,000円以上の場合で、標準報酬月額は65万円と定められています。
月収が63万5,000円を超えると、いくら収入が増えても標準報酬月額は65万円のままです。年収に換算すると、ボーナスを除いた場合、月収63万5,000円は年収762万円に相当します。これが「年収780万円」と言われる由来です。
保険料と年金受給額の上限
厚生年金の保険料は標準報酬月額に保険料率を掛けて算出されます。2023年度の保険料率は18.3%ですので、最上級の32級(標準報酬月額65万円)の場合、月々の保険料は65万円×18.3%=11万8,950円となります。
つまり、年収780万円以上になると、いくら収入が増えても厚生年金の保険料は増えません。言い換えれば、将来もらえる年金額にも上限があるということです。
年収780万円の人も年収1,000万円の人も、将来受け取れる厚生年金の額は同じになります(加入期間が同じ場合)。この点が「損をする」と言われる理由です。
年収780万円の人の手取りと税金負担

年収780万円の場合、実際の手取り額はどれくらいになるのでしょうか。
手取り額のシミュレーション
年収780万円で独身、社会保険料や税金を差し引いた手取り額は以下のようになります:
- 社会保険料:約116万円
- 所得税:約44万円
- 住民税:約44万円
- 手取り額:約576万円
これは月々の手取りに換算すると約48万円となります。社会保険料と税金で年収の約26%が引かれることになります。
所得税率と年収780万円
所得税率は課税所得に応じて5段階に分かれています。年収780万円の場合、給与所得控除や基礎控除などを差し引いた課税所得は約550万円程度となり、税率は20%が適用されます。
ただし、年収695万円を超えると所得税率は23%になるとされていますが、実際には様々な控除があるため、年収780万円でも20%の税率が適用されることが多いです。
年収780万円以上の人が知っておくべき節税・資産形成対策

年収780万円以上になると厚生年金の上限に達することから、将来の年金だけでは現役時代の生活水準を維持できない可能性があります。そこで知っておきたい対策を紹介します。
1. iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用
iDeCoは税制優遇が受けられる私的年金制度です。企業年金がない会社員の場合、月額2.3万円(年間27.6万円)まで掛金を拠出できます。
- メリット:掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税
- 注意点:60歳まで引き出せないため、長期的な資産形成として考える必要がある
2. つみたてNISA・一般NISAの活用
2024年から新NISAが始まり、非課税投資枠が拡大されました。
- つみたて投資枠:年間120万円まで、非課税保有限度額1,800万円
- 成長投資枠:年間240万円まで、非課税保有限度額1,200万円
これらを活用することで、投資による資産形成を税制優遇を受けながら行うことができます。
3. 住宅ローン控除の活用
年収780万円程度であれば、住宅ローン控除の恩恵を十分に受けることができます。住宅を購入する際には、この控除を活用して節税することが可能です。
4. 生命保険料控除の活用
生命保険料や個人年金保険料は一定額まで所得控除の対象となります。適切な保険に加入することで、保障を得ながら節税効果も期待できます。
年収780万円は本当に「損」なのか?

年収780万円を超えると厚生年金の保険料が頭打ちになる一方で、将来受け取れる年金額も上限に達します。しかし、これをもって「損」と単純に結論づけるのは適切ではありません。
メリットとデメリット
メリット
- 収入が増えても厚生年金の保険料は増えない
- 手取り額が増えるため、自由に使えるお金が増える
- 自分で資産形成の選択肢を増やせる
デメリット
- 将来受け取れる年金額に上限がある
- 現役時代の収入と年金の差が大きくなる
- 自分で老後資金を準備する必要性が高まる
考え方を変える
年収780万円以上になるということは、それだけ自分で老後の資産形成を行う余地が広がるということです。厚生年金の上限に達した分、自分の判断で資産を増やす選択肢が増えます。
例えば、iDeCoやNISAなどの税制優遇制度を活用すれば、公的年金以上の運用成果を期待できる可能性もあります。
まとめ:年収780万円以上の人は自助努力で資産形成を
年収780万円以上になると厚生年金の上限に達しますが、これは単に「損」というわけではありません。むしろ、増えた収入を自分でコントロールして資産形成できる機会と捉えることが大切です。
老後の生活を豊かにするためには、公的年金だけに頼らず、iDeCoやNISAなどの税制優遇制度を活用した資産形成を積極的に行うことをおすすめします。現役時代の生活水準を老後も維持したいのであれば、年収780万円を超えた時点で老後資金の準備を本格的に始めると良いでしょう。
- 年収780万円を超えると厚生年金はどうなりますか?
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年収780万円(月収約65万円)を超えると、厚生年金の標準報酬月額は最高等級の65万円で頭打ちとなります。そのため、いくら収入が増えても厚生年金の保険料は増えず、将来受け取れる年金額にも上限があります。年収780万円の人も年収1,000万円の人も、加入期間が同じであれば将来受け取る厚生年金の額は同じになります。
- 年収780万円以上の人はどのような資産形成をすべきですか?
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年収780万円以上の人は、将来の年金だけでは現役時代の生活水準を維持できない可能性があるため、自助努力による資産形成が重要です。iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISA・一般NISAなどの税制優遇制度を活用しながら、計画的に資産を増やしていくことをおすすめします。特に2024年からは新NISAが始まり、非課税投資枠が拡大されたので、積極的に活用するとよいでしょう。
- 年収780万円の手取りはどれくらいですか?
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年収780万円の独身者の場合、社会保険料約116万円、所得税約44万円、住民税約44万円が差し引かれ、手取り額は約576万円(月約48万円)となります。年収の約26%が社会保険料と税金で引かれる計算です。ただし、生命保険料控除やiDeCo加入などの節税対策を行うことで、手取り額を増やすことも可能です。
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