住宅ローンは人生で最も大きな借金になることが多く、返済期間も数十年に及びます。そんな長い期間、健康で働き続けられるか不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実は特定の条件下では、住宅ローンの残債が「チャラ(完済扱い)」になるケースがあります。これは主に団体信用生命保険(団信)の仕組みによるもので、万が一の事態に備える重要な保障となっています。
この記事では、住宅ローンがチャラになる条件や仕組み、実際のケースについて分かりやすく解説します。
住宅ローンがチャラになる仕組みとは?

住宅ローンがチャラになるというのは、残りの返済義務がなくなり、住宅を手放すことなく所有し続けられるということです。
主に団体信用生命保険(団信)という仕組みによって実現します。団信は住宅ローンを組む際にほとんどの方が加入する保険で、万が一の事態に備えるための大切なセーフティネットになっています。
どのような場合に住宅ローンがチャラになるのか、その仕組みと条件について詳しく見ていきましょう。
団体信用生命保険(団信)の基本的な仕組み
団信は、住宅ローンの契約者に万が一のことがあった場合、残りの住宅ローンを保険金で支払ってくれる制度です。
ほとんどの民間金融機関では、住宅ローンを組む際に団信への加入が必須となっています(フラット35では任意加入)。
団信の基本的な仕組みはこうです:
- 住宅ローン契約時に同時に団信にも加入する
- 保険料は通常、住宅ローン金利に含まれている
- 契約者に保険適用事由が発生した場合、保険会社が残りのローンを支払う
- 結果として、住宅ローンの残債がなくなり「チャラ」になる
つまり、住宅ローンを借りた人が亡くなったり重い障害を負ったりした場合でも、残された家族は住宅ローンの支払いを続ける必要がなく、住み慣れた家に住み続けることができるのです。
「でも、そんな事態になることは滅多にないでしょう?」と思われるかもしれませんね。確かに誰もが元気に働き続けられることを願っていますが、住宅ローンの返済期間は通常20年から35年と長期にわたります。
そんな長い期間、健康で働き続けられるかどうかは誰にも分かりません。団信は、そんな「もしも」のときの備えなのです。
住宅ローンは家族全員の生活基盤に関わる重要なものですから、万が一に備えることは大切ですね。あなたは住宅ローンを組む際、団信についてどの程度考えましたか?
住宅ローンがチャラになる主なケース
団信によって住宅ローンがチャラになるのは、一般的に次のようなケースです:
- 死亡時:契約者が亡くなった場合、残りの住宅ローンは団信の保険金によって完済されます。これは最も基本的な保障です。
- 高度障害状態になった場合:両目の視力を失う、言語機能を失う、常に介護が必要な状態になるなど、所定の「高度障害状態」と認められた場合、死亡と同様に住宅ローンがチャラになります。
さらに近年では、団信の特約として次のような保障も増えています:
- 3大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)罹患時:特約に加入していると、これらの疾病と診断された場合に住宅ローンの一部または全額がチャラになることがあります。
- その他の病気やケガで就業不能になった場合:全疾病保障特約などに加入していると、長期間働けなくなった場合に住宅ローンの返済が免除されることがあります。
例えば、あるネット銀行では以下のような団信特約が提供されています:
- 基本プラン:死亡・高度障害保障
- 3大疾病50%保障プラン:基本保障+3大疾病でローン残高の50%保障
- 3大疾病100%保障プラン:基本保障+3大疾病でローン残高の100%保障
- 全疾病保障プラン:上記+その他の疾病・ケガによる就業不能保障
住宅ローンの返済途中で病気になってしまったら、治療費と住宅ローンの二重の負担で大変です。そんなとき、団信特約があれば住宅ローンの心配をせずに治療に専念できますね。あなたはどのような保障があると安心できますか?
実際に住宅ローンがチャラになったケース

ここからは、実際に団信の適用によって住宅ローンがチャラになった事例をいくつか紹介します。一般的な話だけでなく、実際のケースを知ることで、団信の重要性がより理解できるでしょう。
ケース1:がん診断でローンがチャラになった例
40代の男性Aさんは、3年前に3,500万円の住宅ローンを組んで一戸建てを購入しました。住宅ローンを組む際、金利を0.2%上乗せして「がん100%保障特約」付きの団信に加入していました。
ローン返済から2年後、定期健康診断をきっかけに大腸がんが発見されました。幸い早期発見だったため手術で完治する見込みでしたが、治療と回復のため3ヶ月間の休職が必要でした。
Aさんはがんと診断されたことを金融機関に報告し、必要書類を提出しました。すると、がん保障特約の適用により、残りの住宅ローン約3,300万円が全額免除されました。
Aさんは「最初は金利上乗せが少しもったいないと思ったけれど、結果的に助かった。治療に専念できたし、回復後も住宅ローンの負担がなくなって経済的な不安がなくなった」と話しています。
このケースでは、約2年間で支払った金利上乗せ分は約14万円でしたが、3,300万円のローンがチャラになったことを考えると、非常に大きなメリットがありましたね。
なお、金融機関によってがん保障の条件は異なります。「上皮内がん」は対象外の場合もありますし、保障適用までに一定の待機期間を設けている場合もあります。契約前にはしっかり確認することが大切です。
ケース2:ペアローンで連生団信が役立った例
30代の共働き夫婦は、4,000万円の住宅を購入する際、夫が2,500万円、妻が1,500万円のペアローンを組みました。その際、「連生団信」という特約に加入していました。連生団信とは、夫婦のどちらかに万が一のことがあった場合、両方のローンがチャラになる特約です。
ローン返済から5年後、夫が交通事故で亡くなりました。通常の団信では夫のローン分2,300万円(残債)のみが免除されますが、連生団信に加入していたため、妻のローン分1,400万円も含め、合計3,700万円のローン残債がすべてチャラになりました。
残された妻と子どもたちは、住宅ローンの支払いという大きな経済的負担なく生活を続けることができました。「主人の収入がなくなって本当に不安だったけど、住宅ローンの心配がなくなって救われました」と妻は話しています。
ペアローンを組む場合、通常はそれぞれのローンに対して別々の団信がかかります。しかし連生団信があれば、どちらかに万が一のことがあっても、住宅ローン全体がチャラになるため安心です。金利は0.1~0.2%上乗せになることが多いですが、共働き夫婦にとっては検討する価値がある特約ではないでしょうか。
あなたやご家族は、万が一の事態に備えて住宅ローンの保障について話し合ったことはありますか?
団信特約の種類と選び方

住宅ローンがチャラになる可能性を高めるには、自分のライフスタイルやリスクに合った団信特約を選ぶことが重要です。最近では様々な特約が登場しており、保障内容も充実してきました。ここでは主な団信特約の種類と選び方について解説します。
主な団信特約とその内容
現在、多くの金融機関で提供されている主な団信特約は以下のとおりです:
- 3大疾病保障(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)
- がんと診断されたり、急性心筋梗塞・脳卒中で所定の状態になったりした場合に保障
- 保障割合は50%と100%のタイプがある
- 金利上乗せは約0.1~0.3%
- 8大疾病保障
- 3大疾病に加えて、高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎なども対象
- 金利上乗せは約0.2~0.4%
- 全疾病保障
- あらゆる病気やケガによる就業不能状態を保障
- 一定期間(多くは3ヶ月以上)の就業不能状態が条件
- 金利上乗せは約0.2~0.4%
- 連生団信(夫婦連生団信)
- ペアローンなどで、夫婦のどちらかに万が一のことがあった場合、両方のローンを保障
- 金利上乗せは約0.1~0.2%
一部の金融機関では、基本の団信に「がん50%保障」などが無料で付帯していることもあります。例えば住信SBIネット銀行やauじぶん銀行では、金利上乗せなしで3大疾病の50%保障が付いています。さらに金利を上乗せすれば、保障範囲や保障割合を拡大できます。
特約によっては年齢制限があり、40歳以上で加入すると金利上乗せ幅が大きくなる場合もあるため注意が必要です。
自分に合った団信特約の選び方
自分に合った団信特約を選ぶためのポイントをいくつか紹介します:
- 家族の状況: 一人暮らしなのか、配偶者や子どもがいるのかによって必要な保障は変わります。家族がいる場合は手厚い保障が望ましいでしょう。
- 健康状態と家族の病歴: 自分や家族に特定の病気の傾向がある場合は、その疾病をカバーする特約が安心です。例えば、親ががんになった経験があれば、がん保障は重要かもしれません。
- 返済期間と年齢: 返済期間が長い場合や、年齢が高いほど病気のリスクは高まります。若いうちから充実した保障を選んでおくと安心です。
- 金利上乗せの負担: 特約による金利上乗せが家計に与える影響も考慮しましょう。例えば、3,000万円のローンで金利0.3%上乗せの場合、月々の返済額は約4,500円増加します。
以下の表は、ある40歳の方が3,000万円の住宅ローン(35年返済)を組んだ場合の特約別の比較例です:
- 基本団信のみ:金利1.0%、月々返済額 約8.6万円
- 3大疾病50%保障:金利1.1%、月々返済額 約9.0万円(+0.4万円)
- 3大疾病100%保障:金利1.2%、月々返済額 約9.3万円(+0.7万円)
- 全疾病保障:金利1.3%、月々返済額 約9.7万円(+1.1万円)
少し返済額が増えても、万が一の際に数千万円のローンがチャラになる可能性を考えると、保障を手厚くする価値は十分にあると言えるでしょう。あなたはどのような保障を選びますか?
住宅ローンがチャラになる場合の手続きと注意点

実際に団信が適用されて住宅ローンがチャラになる場合、どのような手続きが必要で、どんな点に注意すべきなのでしょうか。スムーズに手続きを進めるためのポイントを解説します。
住宅ローンがチャラになる場合の手続き
団信が適用されるケースで必要な一般的な手続きは以下のとおりです:
- 金融機関への連絡 まずは住宅ローンを借りている金融機関に連絡し、団信の適用について相談します。死亡の場合は遺族が、疾病の場合は本人または家族が連絡します。
- 必要書類の提出 金融機関から指示された必要書類を揃えて提出します。一般的に必要な書類は以下のとおりです:
- 死亡の場合:死亡診断書、戸籍謄本など
- 高度障害の場合:医師の診断書、障害状態を証明する書類など
- 疾病の場合:診断書、入院証明書など
- 審査 提出された書類をもとに、保険会社が保険金支払いの可否を審査します。審査期間は通常1~2ヶ月程度ですが、ケースによってはさらに時間がかかることもあります。
- 保険金支払いと住宅ローン完済 審査の結果、保険金支払いが決定すると、保険会社から金融機関に保険金が支払われ、住宅ローンが完済扱いとなります。
- 抵当権抹消手続き 住宅ローンが完済扱いになると、不動産に設定されていた抵当権を抹消する手続きが必要です。金融機関が「抵当権抹消書類」を発行するので、法務局で手続きを行います。
手続きにかかる期間は、通常1~3ヶ月程度ですが、ケースによっては半年以上かかることもあります。特に審査に時間がかかるケースでは、その間も住宅ローンの返済を続ける必要がある場合もあるため、金融機関に相談することが大切です。
また、死亡や高度障害の場合は、家族が精神的に負担を抱える中での手続きとなるため、生前に団信の適用条件や必要な手続きについて家族に伝えておくことも重要です。
団信適用時の注意点
団信が適用されて住宅ローンがチャラになる場合の主な注意点を紹介します:
- 告知義務違反に注意 住宅ローン契約時の健康状態の告知に虚偽があると、保険金が支払われないことがあります。正確に告知することが重要です。
- 免責事由の確認 自殺(通常は1年以内)や犯罪行為による死亡など、保険金が支払われない「免責事由」があります。また、がん保障では契約から90日以内(待機期間)のがん診断は保障対象外となることが多いです。
- 保障対象となる疾病の定義を確認 例えば「がん」の定義は金融機関によって異なり、上皮内がんが対象外の場合もあります。また、「高度障害」の定義も確認しておくことが大切です。
- 税金の影響 団信による保険金は、一般的に「死亡保険金」として相続税の対象となりますが、債務(住宅ローン)の返済に充てられるため、実質的な課税対象額は少なくなります。ただし、税制は変更される可能性があるため、最新情報を確認しましょう。
- 保険金が支払われるまでの返済 保険金支払いが決定するまでの間も、住宅ローンの返済は継続する必要があります。状況によっては返済猶予が認められることもあるので、早めに金融機関に相談しましょう。
団信は「万が一の備え」ですが、いざというときに確実に適用されるよう、契約内容をしっかり理解しておくことが大切です。あなたは自分の住宅ローンの団信について、どの程度詳しく把握していますか?
住宅ローンがチャラになる仕組みは、主に団体信用生命保険(団信)によるものです。死亡や高度障害だけでなく、近年では3大疾病や全疾病に対する保障も充実してきており、様々なリスクに備えることができます。
団信特約による金利上乗せは家計に負担をかけるように思えますが、万が一の際に数千万円の住宅ローンがチャラになることを考えると、十分な価値がある場合が多いでしょう。特に家族がいる場合は、残された家族の生活を守るためにも重要な保障となります。
住宅ローンを組む際には、単に金利の安さだけでなく、団信の内容も含めて総合的に比較検討することをおすすめします。自分や家族のリスクに合った保障を選ぶことで、長期にわたる住宅ローンの返済を安心して進めることができるでしょう。
あなたの住宅ローンは万が一の事態に備えていますか?見直しのタイミングかもしれませんね。

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