「来月のカレンダーをみたら、勝手に有給休暇を入れられていた…」「会社一斉の夏季休暇で有給消化を強制された…」こんな経験をしたことはありませんか?
せっかくの有給休暇は自分の好きなタイミングで取得したいのに、会社側の都合で勝手に予定が組まれてしまうと困りますよね。
この記事では、会社による有給休暇の計画的付与の仕組み、法律上のルール、そして従業員としての対応策について詳しく解説します。
自分の権利をしっかり理解して、有給休暇を有効に活用するための知識を身につけましょう。
有給休暇の計画的付与とは何か?会社は勝手に決められる?

有給休暇の計画的付与とは、会社があらかじめ従業員の有給休暇取得日を指定する制度のことです。でも、「会社が勝手に決めていいの?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
有給休暇取得の基本原則
まず、有給休暇の取得については、労働基準法で以下のように定められています:
- 有給休暇の取得は、原則として労働者の自由です
- 労働者が請求する時季に与えなければなりません
- 事業の正常な運営を妨げる場合に限り、会社は時季を変更できます(時季変更権)
つまり、本来有給休暇は労働者が「いつ取るか」を決める権利があるものなんです。家族との旅行や自分の趣味の時間、単純にリフレッシュしたい日など、理由は問われません。
計画的付与の法的根拠
しかし、労働基準法第39条第6項では、労使協定を結ぶことで有給休暇の計画的付与が認められています。
この制度を利用することで、会社は従業員の有給休暇の一部(全部ではない!)について、取得時季をあらかじめ指定することができるのです。
ただし、この計画的付与には重要な条件があります:
- 労使協定が必要(会社側の一方的な決定ではダメ)
- 全ての有給休暇を計画的付与にすることはできない(最低5日間は従業員が自由に取得できる日数を残す必要がある)
勝手に会社が決めるのではなく、労使間での合意が必要なのがポイントですね。
計画的付与は違法?合法?判断の基準

「会社が勝手に有給休暇の予定を組むのは違法では?」という声をよく聞きます。実際のところ、どのような場合に違法となるのでしょうか。
違法となるケース
以下のような場合は、違法または不適切な対応と考えられます:
- 労使協定なしで一方的に会社が有給休暇の取得日を指定している
- 年間の有給休暇の全日数を計画的付与としている
- 労働者の意見や希望を全く聞かずに決めている
- すでに自分で5日以上取得している労働者に対しても、さらに計画的付与を強制している
合法的なケース
一方、以下のようなケースは合法的な計画的付与と考えられます:
- 労使協定をきちんと締結している
- 年間の有給休暇のうち一部(5日間を除いた残り)について計画的付与を行っている
- 事前に労働者の希望を聞いたうえで計画を立てている
- 工場の一斉休業日や繁閑期を考慮した効率的なスケジュール管理のために実施している
法律上のルールを守った上で、従業員の意見も取り入れながら運用されていれば、計画的付与自体は違法ではありません。
年5日の有給取得義務と計画的付与の関係

2019年4月から、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、会社は年5日間の有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました。これが「年5日の有給取得義務」です。
年5日取得の方法
この5日間の取得方法には、主に2つあります:
- 労働者自らが申請して取得する方法:労働者が自分の好きなタイミングで有給休暇を申請し、年間で5日以上取得すれば問題ありません。
- 会社が時季を指定して取得させる方法:労働者が自主的に有給休暇を取得しない場合、会社側が取得時季を指定することができます。
この2つ目の「会社による時季指定」と「計画的付与」は似ていますが、実は異なる制度です。時季指定は年5日の取得義務を果たすためのもので、計画的付与は事業の効率的運営のためのものです。
混同しやすい2つの制度
「会社による時季指定」と「計画的付与」の違いを整理すると:
項目 | 会社による時季指定 | 計画的付与 |
---|---|---|
目的 | 年5日の有給取得義務を満たすため | 事業の効率的運営のため |
必要な手続き | 労働者の意見を聴取 | 労使協定の締結 |
対象となる日数 | 5日間(まで) | 5日を超える残りの日数 |
実施のタイミング | 労働者が自主的に取得しない場合 | 計画的に事前に決定 |
大切なのは、会社が時季指定する場合でも、事前に労働者の希望を聴くことが必要であり、できる限りその希望に沿うよう努めなければならないということです。
従業員が知っておくべき対応策

では、会社が勝手に有給休暇の予定を組んでいると感じた場合、従業員はどのように対応すべきでしょうか。
労使協定の内容を確認する
まずは、自社で有給休暇の計画的付与に関する労使協定が結ばれているかどうかを確認しましょう。
労使協定は通常、社内の掲示板や就業規則と一緒に閲覧できるようになっています。分からなければ、人事部や総務部に問い合わせてみましょう。
労使協定がない場合や、協定の内容と実際の運用が異なる場合は、会社側の対応に問題がある可能性があります。
会社側に丁寧に相談する
もし勝手に有給休暇の予定を組まれて困っている場合は、まずは直属の上司や人事担当者に相談してみましょう。以下のようなポイントを冷静に伝えるとよいでしょう:
- 自分が予定していた有給休暇の使い方について(具体的な予定があればなおよい)
- 計画的付与のルールについての確認
- 可能であれば日程の変更を希望すること
感情的にならず、建設的な対話を心がけることが大切です。
内部相談窓口や労働組合を利用する
会社内に相談窓口や労働組合がある場合は、そちらに相談するのも効果的な方法です。
特に労働組合は、労働者の権利を守るために活動している組織なので、適切なアドバイスや支援を受けられる可能性が高いでしょう。
個人での交渉が難しい場合は、組織的な対応を検討するのもひとつの手段です。
労働基準監督署への相談
内部での解決が難しい場合は、管轄の労働基準監督署に相談することもできます。
労働基準監督署では、労働条件や労働問題に関する相談を受け付けています。有給休暇の不適切な取り扱いについても相談可能です。
ただし、いきなり外部機関に相談するのではなく、まずは社内での解決を試みることをおすすめします。
計画的付与のメリット・デメリット

有給休暇の計画的付与は、適切に運用されれば会社と従業員の双方にメリットがあります。一方で、デメリットもあることを理解しておきましょう。
企業側のメリット
- 業務の効率的な運営:繁忙期と閑散期を考慮した人員配置が可能になります
- 有給取得率の向上:年5日の取得義務を確実に履行できます
- 一斉休業による経費削減:工場や事務所の一斉休業で光熱費などの削減が可能です
従業員側のメリット
- 確実な休暇取得:「休みにくい雰囲気」であっても、決められた日に休むことができます
- 長期休暇の取得:ゴールデンウィークや年末年始などに連続した休暇が取りやすくなります
- 計画的な休暇利用:事前に休暇日が分かるため、旅行などの計画が立てやすくなります
デメリット
- 希望日に休めない可能性:自分の希望とは異なるタイミングで休暇を消費することになるかもしれません
- 急な予定変更が難しい:計画的付与の日程が決まると、変更が難しい場合があります
- 有給休暇の自由度が減少:本来自由に使えるはずの有給休暇の一部が制限されます
計画的付与が適切に運用されるためには、労使双方の理解と協力が不可欠です。従業員の意見を尊重した柔軟な運用が理想的といえるでしょう。
まとめ:自分の権利を守りつつ、有給休暇を有効活用しよう
有給休暇は労働者の大切な権利です。計画的付与の制度を理解し、自分の権利を守りながら、有効に活用していくことが大切です。
- 有給休暇の取得は原則として労働者の自由である
- 計画的付与は労使協定が必要で、すべての有給休暇日数を対象にはできない
- 会社による時季指定は年5日の取得義務を満たすためのもの
- 不適切な運用があれば、まずは社内で相談し、必要に応じて外部機関に相談する
有給休暇は心身のリフレッシュや私生活の充実のための大切な時間です。会社と従業員がお互いの立場を尊重しながら、有給休暇を適切に活用できる職場環境が整うことを願っています。
よくある質問
- Q1: 会社が一方的に有給休暇の日を決めるのは違法ですか?
-
A1: 労使協定なしに会社が一方的に有給休暇の取得日を決めるのは不適切です。ただし、年5日の有給取得義務を果たすために、労働者が自主的に有給休暇を取得していない場合は、会社が時季を指定することができます。その場合でも、事前に労働者の希望を聴く必要があります。
- Q2: 計画的付与で全ての有給休暇が指定されてしまうことはありますか?
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A2: いいえ、全ての有給休暇を計画的付与にすることはできません。労働基準法では、年5日間は労働者が自由に取得できる日数として残しておく必要があります。したがって、年10日の有給休暇が付与される場合、計画的付与で指定できるのは最大5日間となります。
- Q3: 計画的付与された日に急用ができた場合はどうすればいいですか?
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A3: 計画的付与された日に急用ができた場合は、速やかに会社側に相談しましょう。会社によっては、計画的付与の日程変更や、別途有給休暇を取得する対応が可能な場合もあります。ただし、一斉休業日などの場合は変更が難しいこともあります。事前に会社の方針を確認しておくとよいでしょう。
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