介護保険制度では、介護が必要な方の心身の状態に応じて「要支援1・2」「要介護1〜5」という区分で介護度が認定されます。
介護度が上がるということは、心身の状態が変化したことを示すものですが、それによって様々なメリットとデメリットが生じます。
適切な介護サービスを受けるためには、介護度の変化が与える影響を正しく理解することが大切です。
この記事では、介護度が上がるメリットとデメリットについて詳しく解説します。
介護度が上がるメリット

介護度が上がることで得られる主なメリットは以下の3つです。これらのメリットにより、必要な介護サービスをより適切に受けられるようになります。
1. 利用できる介護サービスの種類が増える
介護度が上がると、それまで利用できなかった介護サービスを利用できるようになります。特に福祉用具のレンタルでは、要介護度によって利用できる品目に制限があります。
例えば、以下の福祉用具は原則として要介護2以上でないとレンタルできません:
- 車椅子
- 介護用ベッド(特殊寝台)
- 床ずれ防止用具
- 体位変換器
- 認知症老人徘徊感知機器
- 移動用リフト
また、介護サービスの種類によっては、要支援者が利用できないものもあります。要介護になることで、夜間対応型訪問介護や看護小規模多機能型居宅介護などのサービスも利用できるようになります。
実際に介護が必要な状態になっているのに、介護度が低いために必要なサービスを受けられないという状況を避けるためにも、状態に合った正しい介護度を得ることは重要です。
2. 介護サービスの利用限度額が増える
介護保険制度では、要介護度ごとに1か月に利用できるサービスの上限額(区分支給限度額)が決められています。介護度が上がるほど、この上限額も高くなります。
以下は各介護度の支給限度額です(2024年1月現在):
要介護度区分 | 支給限度額 |
---|---|
要支援1 | 5,032単位 |
要支援2 | 10,531単位 |
要介護1 | 16,765単位 |
要介護2 | 19,705単位 |
要介護3 | 27,048単位 |
要介護4 | 30,938単位 |
要介護5 | 36,217単位 |
※1単位は地域によって異なりますが、約10〜11円と考えておくとよいでしょう。
この限度額の範囲内であれば、所得に応じて1割〜3割の自己負担で介護サービスを利用できます。
例えば、要介護2から要介護3に上がると、月あたり約7,000単位も限度額が増えるため、より多くのサービスを利用できるようになります。
現在の介護度の限度額では必要なサービスが足りない場合、介護度が上がることでより適切なサービス量を確保できるメリットがあります。
3. 施設の入所条件を満たせる可能性がある
介護施設には、入所するために必要な要介護度の条件があります。介護度が上がることで、より多くの施設の選択肢が広がる可能性があります。
各施設の入所に必要な要介護度の目安は以下のとおりです:
- 特別養護老人ホーム(特養):原則として要介護3以上 ※要介護1・2の方でも、やむを得ない事情がある場合は入所可能
- 介護老人保健施設(老健):要介護1以上
- 認知症グループホーム:要支援2以上
- 介護医療院:要介護1以上
特に特別養護老人ホームでは、入所待ちの際に要介護度が高い方が優先される傾向があります。そのため、適切な介護度認定を受けることが、希望する施設への入所につながる可能性があります。
介護度が上がるデメリット

介護度が上がることで生じる主なデメリットは以下の2つです。これらのデメリットを理解した上で、適切な対応を考えることが重要です。
1. サービスによっては利用料が高くなる場合がある
介護保険サービスの中には、要介護度が上がると1回あたりの利用料が高くなるものがあります。これは、要介護度が高いほど必要なケアが増えるという前提に基づいています。
利用料が要介護度によって変わる主なサービスは以下のとおりです:
- デイサービス(通所介護)
- ショートステイ(短期入所生活介護)
- 通所リハビリテーション
- 小規模多機能型居宅介護
例えば、デイサービスでは同じ時間利用しても、要介護度が上がるにつれて1回あたりの単位数(=費用)が上がります。そのため、要介護度が上がると、同じ回数のサービスを利用しても自己負担額が増える可能性があります。
一方、以下のようなサービスは要介護度が変わっても基本的な利用料は変わりません:
- 訪問介護(ホームヘルパー)
- 訪問看護
- 訪問入浴
- 訪問リハビリテーション
- 福祉用具のレンタル
これらのサービスは、利用時間や内容によって料金が決まるため、要介護度の変化による直接的な影響は少ないです。
2. 現在の介護施設を退去しなければならない場合がある
入所している介護施設によっては、要介護度が上がると施設の受入れ基準を超えてしまい、退去を求められる場合があります。
特に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、介護体制が比較的軽度の施設では、入居条件として「自分である程度のことができる」といった要件を設けていることがあります。心身の状態が悪化して要介護度が上がると、施設での介護体制では対応できないと判断され、より手厚い介護体制のある施設への転居を勧められることがあります。
このようなケースを避けるためには、入居前に施設の退去条件や、要介護度が上がった場合の対応についてしっかり確認しておくことが大切です。また、外部の介護サービスを利用できる施設であれば、より長く住み続けられる可能性があります。
介護度が上がると感じたときにすべきこと

介護が必要な方の状態が変化して、現在の介護度では適切なサービスを受けられないと感じた場合、以下の対応をしましょう。
1. 担当ケアマネジャーに相談する
まずは担当のケアマネジャーに心身の状態の変化を正直に伝え、区分変更申請が必要かどうか相談しましょう。ケアマネジャーは介護保険制度に詳しいプロですので、状況に応じた適切なアドバイスをくれるはずです。
特に以下のような状況では、区分変更申請を検討する価値があります:
- 現在のサービスでは足りないと感じる
- 利用したい福祉用具があるが、現在の介護度では利用できない
- 入所を希望する施設の条件を満たしていない
2. 区分変更申請の手続きを行う
区分変更申請は、要介護度の有効期間中でも状態が変化した際にいつでも行うことができます。申請手続きは以下の流れで進みます:
- 区分変更申請書を市区町村の窓口に提出する (ケアマネジャーが代行してくれる場合もあります)
- 認定調査員による調査が行われる (この際、ご家族も立ち会い、普段の状態を正確に伝えることが重要です)
- 主治医の意見書が提出される
- 一次判定(コンピュータによる判定)と二次判定(介護認定審査会による判定)を経て、新しい要介護度が認定される
申請から結果が出るまでには約1ヶ月程度かかります。区分変更申請中も、現在の要介護度でのサービス利用は継続できます。
3. 認定調査には家族も立ち会う
認定調査の際には、可能な限り家族も立ち会うことをおすすめします。本人は「自分でできる」と言いたがる傾向があり、実際の状態よりも良く評価されてしまうことがあります。家族が日常生活での困りごとや介助の状況を具体的に伝えることで、より正確な評価につながります。
また、日常生活での状態を記録したメモや写真、動画などがあれば、それらを活用して実際の状態を伝えるとよいでしょう。
まとめ:適切な介護度で必要なサービスを受けよう
介護度が上がることには、利用できるサービスの増加や限度額の拡大などのメリットがある一方、費用負担の増加や施設退去のリスクといったデメリットもあります。
大切なのは、必要な介護サービスを適切に受けられる介護度の認定を受けることです。心身の状態に変化があり、現在の介護度では十分なサービスを受けられないと感じたら、迷わずケアマネジャーに相談しましょう。
介護保険制度は、介護が必要な方の状態に合わせて適切なサービスを提供するための制度です。その人らしい生活を送るためにも、制度を正しく理解し、活用していくことが大切です。
- 要介護度の有効期間はどのくらいですか?
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要介護認定の有効期間は、初回認定では原則として6か月、更新認定では原則として12か月です。ただし、介護認定審査会が必要と判断した場合には、要介護者の心身の状態によって期間が変更されることもあります。有効期限が切れると介護サービスの給付を受けられなくなるため、期限が近づいたら更新手続きを行いましょう。有効期限は介護保険証や介護認定決定通知書で確認できます。
- 介護度に納得できない場合はどうすればいいですか?
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介護認定の結果に納得できない場合は、「不服申し立て」を行うことができます。認定結果の通知を受けた翌日から3か月以内に、都道府県の介護保険審査会に対して申し立てを行います。ただし、結果が出るまでに数か月かかる場合があります。もう一つの方法として「区分変更申請」があり、こちらは申請期限がなくいつでも行えます。どちらの方法が適しているかは、状況に応じて判断するか、ケアマネジャーに相談するとよいでしょう。
- 入院中でも区分変更申請はできますか?
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はい、入院中でも区分変更申請は可能です。病院の許可を得れば、病室で認定調査を受けたり、主治医意見書の作成を依頼したりできます。ただし、申請から結果が出るまでに1ヶ月〜1ヶ月半程度かかりますので、退院後すぐに介護サービスを利用したい場合は、退院の1ヶ月半以上前には手続きを始めることをおすすめします。入院中の申請については、担当のケアマネジャーや病院の相談員に相談するとよいでしょう。
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